コムガーホイアンは、ホイアンが誇る5大名物(カオラウ、ホワイトローズ、揚げワンタン、ミークアン、コムガー)の中では、メジャーな方ではありませんが、実は最も日本人の味覚に自然に寄り添い、年齢や好みを問わず受け入れられやすい完成度の高い料理です。
派手さこそありませんが、食べ終えたあとに「もう一度食べたい」と思わせる力があり、滞在中に繰り返し選ばれることも少なくありません。また、ダナンのコムガーとは名前が同じでもまるっきり異なるスタイルで食べるところがユニークです。

隠れた主役としてのコムガーホイアン
カオラウやホワイトローズは見た目や物語性が強く、ガイドブックでも大きく取り上げられがちですが、コムガーは「鶏飯」という素朴な印象から、紹介が簡略化されることがあります。しかし実際には、下処理、炊飯、和え、付け合わせまで、すべての工程に明確な意味があり、家庭料理の延長ではなく、街全体で洗練されてきた郷土料理です。
独特のコシがあるカオラウや、軽食的なホワイトローズに対し、コムガーは一皿で食事として完結する満足感があり、旅先での昼食や夕食として非常に安定した選択肢となります。日本人が日常的に慣れ親しんでいる「米と鶏」という組み合わせである点も、心理的なハードルを下げています。
黄金のご飯に隠された知恵
コムガーホイアンの象徴とも言える黄色いご飯は、見た目の印象以上に理にかなった調理法の結晶です。生米を最初に鶏の脂で炒めることで、米粒の表面を油で保護し、炊き上げた際に水分を過剰に吸いすぎない状態を作ります。
その後、老鶏から時間をかけて取った旨味の強いスープに、ターメリックを加えて炊き上げることで、色だけでなく香りと風味が米の内部まで均一に行き渡ります。この工程によって、米はベタつかず、口に含むとほどけるような食感を保ちます。この調理法は、かつて交易で栄えたホイアンに流入した華僑文化と、ベトナム中部の食材を最大限に生かす知恵が融合した結果と考えられています。

鶏肉への徹底したこだわり
使用される鶏肉は「ガー・タ」と呼ばれる放し飼いの地鶏が理想とされます。成長に時間をかけているため、肉質は引き締まり、噛むほどに旨味がにじみ出ます。茹で上げた鶏は、包丁で均一に切るのではなく、必ず手で細かく割かれます。
この工程は見た目以上に重要で、繊維に沿って裂かれた断面が、後から和える調味料や香草を自然に抱え込み、口に運んだ際の一体感を高めます。機械的な作業では再現できない点が、専門店とそうでない店の差として表れます。

味の決め手となるラウラムと玉ねぎ
割いた鶏肉は、薄切りの玉ねぎとラウラムと共に和えられます。ラウラムは日本ではなじみの薄いハーブですが、清涼感とほのかな苦味を併せ持ち、鶏の脂の重さを和らげる役割を果たします。
塩、胡椒、ライム、少量の唐辛子というシンプルな調味でありながら、素材同士のバランスが非常に繊細で、どれかが強すぎると全体が崩れてしまいます。この香草の使い方には、中部ベトナム特有の食文化が色濃く表れています。
付け合わせのスープとチリソース
コムガーには必ず、鶏の茹で汁をベースにしたスープが添えられます。このスープには、刻んだレバーや砂肝などが加えられ、淡白になりがちな主菜を補完する役割を担います。また、卓上に置かれるホイアン特有の甘辛いチリソースを少量加えることで、味に変化と奥行きが生まれます。辛味を足すというより、全体を引き締めるための存在です。

ホイアンの歴史を感じる懐かしい味
ただし、ラウラムの香りが独特で、香草が苦手な方には好みが分かれる可能性がありますのでご注意ください。
コムガーホイアンは、派手な観光料理ではありませんが、ホイアンの歴史、交易、気候、生活が積み重なって完成した、親しみやすさと奥深さを兼ね備えた一皿です。
日本人にはどこかで食べたことがあるような懐かしい味でもあり、初訪問の方にも、何度もホイアンを訪れている方にも、ぜひ味わっていただきたい料理と言えます。
